私に交響曲の楽しさを教えてくれたのが「チャイコフスキー作曲の交響曲5番」です。
標題音楽や協奏曲などでオーケストラを聴く楽しさを感じてくると、次は交響曲にもチャレンジして欲しいです。
暗→明という分かりやすい構成。
全楽章に登場する主題の存在。
また、第2楽章の美しいホルンソロや、第4楽章のカッコいいコーダなど、つい口ずさんでしまうようなメロディーも豊富です。
はじめての交響曲にぴったりな曲です。
この記事では、そんなチャイコフスキー作曲の交響曲第5番について、聴く前に知っているともっとこの曲が楽しめる曲の背景&曲解説と、この曲のCDを集めに集め40枚ぐらい聴いてきた私の思う聴き所ご紹介します。
チャイコフスキー交響曲第5番の背景をご紹介
チャイコフスキーの交響曲は6曲あります。
第1番~第3番までも演奏されない曲ではありませんが、特に「第4番」「第5番」「第6番」のいわゆる後期交響曲はチャイコフスキーを代表する名曲です。
幸福な時代に書かれた明るく多彩な「第4番」と、愁い・苦悩を強く表現した「第6番」にはさまれた「第5番」は後期交響曲の中でも最もオーソドックスな曲です。
交響曲第5番は1888年に書き上げられました。
チャイコフスキーは交響曲第5番作曲後、残り5年の生涯においてバレエ音楽『眠りの森の美女』、バレエ音楽『くるみ割り人形』、交響曲第6番『悲愴』など、現在チャイコフスキーの代表曲として挙げられる作品を作り上げています。
交響曲第5番は晩年における更なる飛躍に繋がっています。
初演は作曲同年11月17日にチャイコフスキー自身の指揮により行われました。
聴いていたお客さんの反応は良いものでしたが、専門家からの評価は芳しくありませんでした。
一部をご紹介すると以下のようなものでした。
・全体として交響曲は思想が貧弱で、お定まりで、音が音楽に勝っていて、聴くに耐えない。
初演後、11月24日、11月30日での演奏会でも交響曲第5番を指揮したチャイコフスキー。
初演含む3回の演奏で、この曲に対する自身を失ってしまいます。
チャイコフスキーはパトロンであったフォン・メック夫人に手紙を宛てています。
・ここには何か余分で雑多なもの、不誠実でわざとらしいものがあります。
・私達の交響曲(第4番)を再検討してみました。何という差があることでしょうか。なんと立派によく書けていることでしょうか。これは大層悲しいことなのです。
チャイコフスキーは新作の発表時には、自身の才能や曲の価値についてしばしば懐疑的になったといわれていました。
そのような疑問を持ったまま指揮をしたことが不評の原因となった可能性も十分にあります。
交響曲第5番が完全な成功となったのは、1889年3月15日に上演されたときになります。
この時も、チャイコフスキー自身による指揮でした。
演奏も大変良く、チャイコフスキーのこの曲に対する自信も確かなものになっていったと言われています。
因みに、この時のリハーサルをブラームスが聴いており、チャイコフスキーに「第1楽章から第3楽章までは良いが第4楽章は気に入らない」といった評価を伝えています。
その後は、交響曲第5番をレパートリーとしたハンガリーの指揮者であるニキシュの活躍のもと、この曲の評価が広まっていき、現在では交響曲第4番、第6番と合わせ後期交響曲としてチャイコフスキーの代表曲の1つとなっています。
チャイコフスキー交響曲第5番の簡単曲解説
ここからは楽章ごとに曲の解説をしていきます。
各楽章ごとに冒頭でおおよそどんな曲かまとめたので、「どんな曲か知りたいだけ」って方はその部分だけでもOKです。
その後に楽譜に沿って細かく解説します。
解説で曲のつくりを簡単に知っておくと曲の聞こえ方も変わってくるので余裕があればぜひ読んでみてください。
第1楽章:Andante – Allegro con anima
ほの暗い曲調で始まり、徐々に盛り上がっていきます。
冒頭全楽章に渡って登場する運命の主題と呼ばれるメロディーの後、主に行進曲調のリズムに乗った跳ねるようなメロディーと、心情を吐露するような叙情的かつ壮大なメロディーで構成されています。
行進曲調のメロディーは「人生を進めていく歩み」、叙情的なメロディーは「一時の休息」のように人の人生を表しているかのようです。
曲調の揺れ動きもあり飽きも来ません。
まさに交響曲の入り口である第1楽章らしい決して明るくはないが壮大な曲となっています。
序奏(運命の主題)
冒頭の序奏は2分強、全楽章に渡って登場する「運命の主題」がクラリネットによって演奏されます。
とても暗く重苦しいニュアンスです。
赤丸で囲った部分は下降していく音階は、非常に重要で第3楽章のワルツ主題、第4楽章の第1主題にも関連が見られます。
提示部
序奏の後、主部に移ります。
弦楽器の行進曲調のリズムに乗って、クラリネットとファゴットのユニゾンで第1主題が提示されます。
序奏と比べると36分休符やスタッカートによって跳ねるようなリズムとなり重苦しさは軽減しています。
とはいえ、暗く不安感を感じる主題です。
メロディーの主導権がフルートに移った後、再度第1主題が今度はヴァイオリンとヴィオラによって繰り返されます。
第1主題は転調を繰り返しながらfffまで盛り上がりをみせます。
最初の頂点です。
第1主題が頂点に達した後、第2主題群に移っていきます。
ここでは2つの主題が見てとれます。
この2つの主題については、下記のような見解に分かれています。
②(1)が第2主題で(2)が推移主題
③第1主題を含め3つが提示部の主題
個人的には第1主題との対比がはっきりしている(2)を第2主題とする①が聴覚上理解しやすいと思っているので(1)を推移主題、(2)を第2主題として記載いたします。
揺れ動く心のような推移主題(赤丸)はまず弦楽器によって奏され、そこに対話するように木管楽器の掛け合い(青丸)が入ります。
3小節間、Poco meno animato(これまでよりも少し元気さを抑えめに)で若干テンポを落とし、1小節でStringendo(だんだん早く)をかけてテンポを戻すと、今度は木管楽器→ホルンの推移主題(赤丸)に弦楽器のピチカートによる対話(青丸)が入ります。
ffで弦楽器がピチカートをはじき、木管楽器とホルンに明るく活気のある動機が登場します。
この動機は展開部まで様々な箇所で登場します。
そしてその動機に弦楽器が答える形(赤枠)を4度繰り返し第2主題へ移ります。
活気ある動機から一転し、落ち着いた音量で表情豊かにヴァイオリンが第2主題を歌います。
とても美しく心休まるメロディーです。
ヴィオラが加わる形で第2主題をより盛り上げた後、フルート、チェロも加わりStringendoをかけ提示部のクライマックスへ到達します。
高音楽器であるフルート&ヴァイオリンによる活気のある動機(青枠)とその他の楽器による第1主題の音型(赤枠)が重なり合います。
それを数度繰り返した後、徐々に楽器数が減っていくことで静まっていき展開部となります。
展開部
展開部では主に第1主題が素材として展開され、特に上記①の形はしつこく繰り返されながら華麗に盛り上がっていきます。
また、ヴァイオリンには推移主題(②)もみられ、活気ある動機(③)も各楽器によって奏されています。
再現部
再現部はファゴットによって第1主題が始められ、その後クラリネット→フルートと移っていきます。
提示部と同様、弦楽器によって第1主題が繰り返され、以降提示部と同様に推移主題→第2主題と再現されていきます。
コーダ
コーダは第1主題を素材としており、全楽器によって強奏されます。
そして最後はチェロ、コントラバスのみとなり、コントラバスの最低音によって終結します。
第2楽章:Andante cantabile, con alcuna licenza
pppp から ffff までと全楽章の中で最も幅があり、テンポの変化も全楽章の中で最も多くなっています。
そのため第1楽章のように暗くなく、とにかく美しく劇的な楽章でまさにカンタービレ!
冒頭の朗々としたホルンソロはこの曲を語る上で外せない部分です。
その他にも、クラリネット、オーボエソロ。
そして、チェロ、ヴァイオリンとヴィオラ、、、
次々に聴き所がやってきます。
また曲が2度頂点に達する部分で突如現れる運命の主題も聴き所です。
眠りにつく瞬間、夢か現実か分からなくなる。そんなイメージの曲です。
主部
弦楽器の低音によって静かに曲が始まり、そこに乗ってホルンソロによる主旋律の提示が行われます。
このホルンソロは、「メロディーメーカー」チャイコフスキーの残した名旋律の中でも、特に甘く美しいもので、ホルンの音色も手伝い夢の中にいるような気分にさせてくれます。
途中クラリネットとのやりとりを交わしながら、15小節におよびこの甘美な歌が続いていきます。
15小節におよぶ主旋律提示の後、オーボエとホルンが掛け合う形で副次旋律の提示が行われます。
明るく乾いた音のオーボエと含みのある音色のホルンとの対比は、現実と夢を行き来しているようなイメージを掻き立てられます。
副次旋律の提示後、すぐに再度主旋律が今度はチェロによって奏されます。
人の声に近い楽器とも言われるチェロの表情豊かな音色もまた、心揺さぶる美しさです。
チェロによるメロディーはどんどんと高揚していきffまで到達します。
4部休符+8部休符による一瞬の無音によって、高揚した音楽は落ち着きを取り戻し、ヴァイオリンとヴィオラによる副次旋律が始まります。
落ち着きを取り戻したのも束の間、すぐに情熱的に副次旋律が歌われ、クライマックスが築かれていきます。
非常に高揚感を覚える箇所ですね。
最後はpまで音量を落とし中間部へと入っていきます。
中間部
ややテンポが上がり、少し影を落としたような郷愁に駆られるメロディーがクラリネットによって奏され、ファゴットに引き継がれます。
そして、中間部のクライマックスには、音楽の大きな盛り上がりを伴って「運命の主題」が登場します。
主部(再現)
中間部クライマックスで大きな盛り上がりを見せた後、休止のフェルマータをはさみ主部の再現に移ります。
まずは、弦楽器のピチカートによる伴奏に乗って1stヴァイオリンが主旋律を奏します。
オーボエの対旋律は主部に比べて音数が増えより対比が明確です。
その後主旋律は木管楽器へと受け渡されます。
ここではpiu mossoの指示によりこれまでよりもテンポを上げ推進力を伴います。
主旋律の頂点で、副次旋律が弦楽器によってfffで奏され、その勢いのままどんどんと感情の昂ぶりを見せffffまで到達します。
第2楽章の頂点です。
ffffまで達した後徐々に音量を落としていくかと思った矢先に、あまりにも突然「運命の主題」が強奏されます。
分かっていてもドキッとしてしまう場面です。
お互い掛け合いながら弦楽器が副次主題の断片を奏し、音楽は静まっていきます。
最後はクラリネットソロによりpppで第2楽章を閉じます。
第3楽章:Valse. Allegro moderato
各楽章の中で演奏時間が比較的短く6分弱となっており、とても聴き易い楽章になっています。
1楽章、2楽章と比べ軽快で明るく、楽しげな曲調です。
運命の主題は最後にこれまでとは違い静かにクラリネットとファゴットにより演奏されます。
主部
第3楽章は、1stヴァイオリンによる第1のワルツで幕を開けます。
非常に優雅なこのメロディーですが、「運命の主題」の下降音階で始まっています。
少し推進力のある第2のワルツはオーボエとファゴットによって奏され、クラリネットへと受け継がれます。
一旦、第1のワルツをはさんだ後、ファゴットソロによる第3のワルツが登場します。
シンコペーションが印象的です。
実は、第2楽章のホルンソロと並んでこのファゴットソロも、アマチュアオーケストラなどの演奏会ではカーテンコールでファゴット奏者に向かって大拍手が起こるような箇所なんです。
中間部
16分音符のフレーズが特徴的で、とても軽やかでかわいらしい音楽です。
3拍子なのに2拍子に聴こえるのが面白いです。
主部(再現)
第1、第2、第3のワルツ回帰後、コーダとなります。
コーダでは、クラリネットとファゴットに「運命の主題」が登場します。
第2楽章のように強奏ではなくppですが、突拍子の無さは同じで影を落とす印象です。
最後はそんな「運命の主題」を振り払うかのようなオーケストラ全体による強奏で曲を占めます。
第4楽章:Finale. Andante maestoso – Allegro vivace
私がこの世の音楽の中で最も好きな楽章です。
時間の無いときでもこの4楽章だけは毎日聴いています。
重苦しかった運命の主題が、冒頭から荘重に明るく力強いものになって登場します。
その後、荘厳な雰囲気から一変し、快速ですっ飛ばしながら激しく派手なメロディーに。
途中にも金管楽器等による運命の主題が現れますが、ここではとてもかっこよく演奏されます。
最後はmolto maestoso(きわめて荘厳に、堂々として)で運命の主題が華やかに弦楽器、次いでトランペットにより演奏されます。
そして勝利の瞬間を堂々と、また華やかに讃えるように全曲を締めます。
華やかさ、爽快さ、壮大さ、美しさのすべてを感じることのできる本当にすばらしい曲です。
皆さんにぜひ聴いてほしい。
序奏
弦楽器の低音によって「運命の主題」が荘厳に奏されます。
明らかにこれまでの「運命の主題」とは性格の違うものです。
ゆったり堂々とした音楽が流れ、威厳に満ちています。
弦楽器により始まった「運命の主題」は、弦楽器がピチカートによる伴奏へと回り、ホルンとトランペットにその音型が引き継がれます。
ffで引き継がれた「運命の主題」ですが、ここではスフォルツァンドからのデクレッシェンドでppまで落とされています。
その後クレッシェンドの指示がありここで頂点を迎えるのかと思った矢先、スフォルツァンド・ピアノですぐに抑えられ、結局冒頭のmfとなり木管楽器による「運命の主題」の繰り返しへと移ります。
今度も、ホルンとトランペットが同じ音型で登場しますが、今度はそのままクライマックスを築きます。
ここが序奏の頂点です。
序奏が静まる中、ティンパニのトレモロとコントラバスがクレッシェンドをかけ、主部へ突入します。
主部に第1主題の登場の直前(青丸の1拍目)にアクセントを置く演奏が多いのですが、楽譜通りに演奏すると、迫りくるように第1主題に突入する聴こえ方がします。
提示部
弦楽器によって第1主題は提示されます。
ダウンの連続により弓が叩き付けられるため、第1主題は非常に荒々しいものとなっています。
弦楽器によって提示された第1主題はその後全合奏によって2回繰り返されます。
繰り返しとはいえ上記譜例のように、3回それぞれが楽譜通りに演奏すると、聴覚上でもわかるような違いがあります。
第2主題提示前に2つの推移主題が挟まれています。
1つ目はオーボエによって奏される、楽し気なメロディーです。ヴァイオリン
2つ目の推移主題はヴァイオリンとヴィオラ&チェロによって、カノンのような形で奏されます。
第2主題は木管楽器によって提示されます。
荒々しい第1主題と比べ、滑らかに流れるようなメロディーです。
第2主題が盛り上がりを見せた後、金管楽器によって「運命の主題」が奏されます。
これまでの楽章と比較し「運命の主題」の登場に唐突さは感じられません。
また非常にかっこよく演奏されるため、気分をさらに高揚させてくれます。
展開部
「運命の主題」に引き続く形で展開部へ入っていきます。
展開部では第1主題、第2主題が展開されます。
再現部
展開部の終わりで、音楽は静まりかえりテンポも落ちていきます。
すると突如ffでドライブをかけるように再現部が始まります。
第1主題は低音楽器によって奏されますが(黄囲み)、よく聞いていないと高音楽器のメロディーに耳が持っていかれます。
再現部では第1主題、推移主題、第2主題と順に再現されていきます。
再現部の終わりに金管楽器による「運命の主題」が現れ、壮大な盛り上がりを見せます。
盛り上がりを見せたまま最後の和音が鳴り響くと全休止します。
因みに全休止部分ではフェルマータが書かれていますが、無視してコーダに流れ込む演奏も結構あります。
コーダ
コーダでは「運命の主題」が弦楽器によって高らかに行進曲調で奏されます。
その後「運命の主題」がトランペットに引き継がれると、さらにキラキラと輝かしさを伴いながら響き渡っていきます。
まるで勝利の凱旋のようです。
輝かしいトランペットの裏では、弦楽器が弓を全力で動かしながら一生懸命に刻みを入れ、トランペットを支えているので覚えておいてほしいです。
輝かしい「運命の主題」の後、急速なPrestoへ突入します。
これは1つ目の推移主題に基づいたものです。
Prestoを経て、最後は第1楽章の第1主題がこちらも非常に輝かしくホルンとトランペットにより交互に奏され、最強奏の和音によって全曲を締めくくります。