ショスタコーヴィチはコアなファンが多い作曲家です。
ネット上でも色々と議論されていますが、結局どの演奏がいいのか分からなくないですか?
ヴァイオリン協奏曲第1番もショスタコーヴィチのほかの曲と同じように演奏によって印象が結構変わる曲です。
そこで、この記事ではショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番について「こんな方にはこの演奏がおすすめだよ」という形で名盤をご紹介していきます。
みなさまのベストな演奏を見つけるのに少しでも役に立てば幸いです。
ゆったりしたテンポで「感情的な表現」の名演・・・ヴェンゲーロフ
全体的にゆったりしたテンポで、めちゃくちゃ感情的な演奏という印象です。
とはいっても、きちんとショスタコーヴィチの雰囲気は保っています。
この演奏において、ヴェンゲーロフのヴァイオリンの音色はほの暗い響きで、この曲とマッチしているのだと思います。
個人的には、特に2楽章や4楽章はもう少し淡々としたシャープな演奏のほうが好みです。
ただ、3楽章はベストの演奏です。
声にならない悲しみの感情を吐露するようにほの暗い響きで独奏ヴァイオリンが登場しますが、この瞬間からグッと引き込まれます。
そして、オクターブの重音の前後、この楽章での最大音量で演奏される部分の悲痛な高音の響きは聴いていて苦しくなってくるほど感情のこもった演奏です。
オーケストラは全楽章通じて存在感のあるすばらしい演奏であると思います。
4楽章の出だしなどはめちゃくちゃかっこいいです。
録音に関してはマイクが若干近いです。
3楽章ではそれが曲の雰囲気とマッチしていますが、ほかの楽章では弦と弓の擦れる音がもろに聞こえてきて、多少音が汚い印象になってしまうかもしれません。
心揺さぶられるすばらしい演奏であることは間違いないです。
感情を抑制したシャープなショスタコーヴィチ・・・ハーン
ハーンには、めちゃくちゃ上手だけど機械的で面白くないという印象を勝手に持っていましたが、全くそんなことはなかったです。
全体を通じて冷静でシャープな演奏です。
ただそれは、感情がないのではなく感情を抑えつけているといった印象をうけます。
またハーンの音色は寒色系のイメージでショスタコーヴィチにはぴったりだと思います。
まずは2楽章ですがとにかくテンポが速い。
単純に楽しいです。
そしてトリオの行進曲調の部分はとてもかっこよくてテンション上がります。
ただそれだけでなく、ショスタコーヴィチのスケルツォはこれだろうと思わせられる説得力がある演奏です。
この曲のおどけた感じがこのテンポであることでより強調されます。
正直この楽章はほかの演奏が聴けなくなります。
そして4楽章もやはり高速です。
ハーンは極端なアクセントをつけたり、音を引きずることがないため自然に音楽が流れていきます。
とはいってもあっさりしているという訳ではなくめちゃくちゃ熱狂的です。
ずっと凄いんですが、特にコーダ部分は圧巻です。
1段階ギアをあげてまくし立てていきます。
本当にあっという間に終わってしまいますが聴き終えた後はスカッとした気分になります。
2楽章、4楽章はこれを超える演奏はないと思っています。
1楽章、3楽章はほかの演奏と比べても比較的ゆったりめのテンポ設定で、しっかりと歌っています。
これらの楽章では冒頭でいったように感情がしっかりコントロールされていて、いたずらに感情的な演奏よりも、作曲家の置かれた立場を考えるとよりショスタコーヴィチ的であるように思います。
豊かな低音とほの暗い高音が響く緊迫感のある演奏・・・オイストラフ
初演から1年後の1956年11月18日録音になります。
オイストラフと言えば1956年11月30日の録音が有名です。
残念ながら私は所持していないため比較はできませんが、この1956年11月18日の録音も十分に「オイストラフのショスタコーヴィチ」を聴くことができるすばらしい録音だと思います。
オイストラフのヴァイオリンは、低音は豊かに広がり高音はほの暗さのある音色です。
そのため、緩徐楽章では深刻な雰囲気をより作り出し、急速楽章では祝祭的により過ぎない演奏になっています。
ムラヴィンスキー&レニングラードフィルの演奏は緊迫感があり締まった演奏です。
3楽章のヴァイオリンの高音と裏で鳴るチューバやホルンが本当に恐怖を感じる音でそれが美しいです。
初演コンビの演奏ですので、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番のスタンダードな演奏はきっとこれなんでしょう。
録音状態はいいとはいえませんが、オイストラフのヴァイオリンは最初から最後まで1音1音聞き取ることができます。
オーケストラは多少遠かったりぼやけてしまう部分もありますが、雰囲気を味わうものだと割り切れば気にならないです。