ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番を解説!深刻で滑稽で激しい曲

ショスタコーヴィチ クラシック音楽

この記事では、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番について、スコアなしでもある程度構造が分かるような曲の解説をします。

曲の構造をある程度理解して聴くと、ただ流して聴くだけよりもより色んな音が聞こえてきて、もっとこの曲を楽しむことができるようになります。

ぜひ解説を読んで聴いてみてほしいです。

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ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番の背景をご紹介

ショスタコーヴィチはヴァイオリン協奏曲第1番の作曲を1947年7月に開始しています。
そして完成したのは約8ヵ月後の1948年3月です。

ただ内容的に前衛的な部分があることから、ショスタコーヴィチは政府から批判されることを恐れて発表を控えました。

これは「ジダーノフ批判」と呼ばれる、国家による芸術統制がその背景にあります。

ジダーノフ批判(ジダーノフひはん)は、ソビエト連邦共産党中央委員会による前衛芸術に対するあら捜しと、それに伴う芸術様式の統制である。1948年2月10日に公にされた。この批判を推し進めた人物、中央委員会書記アンドレイ・ジダーノフにちなむ。1958年5月28日に宣言が解除されるまでの10年間について、旧ソ連では俗に「ジダーノフシナ(Zhdanovshchna, ジダーノフ時代)」として知られている。ヨシフ・スターリンの死まで有効とされた。

「ジダーノフ批判」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より引用。
2018年12月17日 (月) 15:47 UTC

そのためヴァイオリン協奏曲第1番の初演は曲が完成してからおよそ7年後の1955年になります。
ヴァイオリン独奏オイストラフ/ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー交響楽団によって行われました。

ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番・・・曲解説

協奏曲と言えば「急‐緩‐急」の3楽章構成が一般的ですが、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番は「緩‐急‐緩‐急」の4楽章でできています。

楽器編成は、木管楽器はそれぞれ3本ずつで打楽器も増やしていますが(タンバリン、タムタム、シロフォン)、金管楽器はホルン4本とチューバのみでトランペットとトロンボーンは入っていません。
そのためか、オーケストラも少し変わった響きとなっています。

それではショスタコーヴィチ「ヴァイオリン協奏曲第1番」を、各楽章ごとに解説していきます。

第1楽章:Nocturne. Moderato

・協奏曲の第1楽章が「ノクターン(夜想曲)」なのは珍しい。
・曲全体が深刻なトーンに支配されていて、重く暗い曲。
ロマンティックさはかけらもないですが、暗さの中にも瞑想的な美しさを感じることができ、これは間違いなく「ノクターン(夜想曲)」です。

導入部のある三部形式となっています。

重々しくうめくような低弦による序奏の後、5小節目より独奏ヴァイオリンが同じようにシリアスな雰囲気で登場します。
独奏ヴァイオリン主導による3分強の導入部を経て、導入部から流れが途切れることなく第1部へ入っていきます。

正直私は耳で聞いているだけではどこまでが導入部なのか分かりません。

その後一旦独奏ヴァイオリンは休みとなりますが、すぐにピッコロの音を引き継ぐ形で戻ってきて中間部となります。

独奏ヴァイオリンはミュートをつけ高い音で演奏しますが、ここにオクターヴ内の12の音がすべて登場します(十二音技法)。
といっても、そこまで前衛的な雰囲気でもなく聴きづらいということはないです。
その後に登場するハープとチェレスタは、ショスタコーヴィチ「交響曲第5番」の第3楽章に雰囲気が似ています。

次に独奏ヴァイオリンの重音で主要主題が演奏されます。
これは擬似再現で、第3部はその重音での演奏が終わり一旦オーケストラに移った後に、ミュートをつけた独奏ヴァイオリンによって、ほぼ第一部が繰り返されるところです。

その後コーダへと移り、イ短調で静かに終わります。

第2楽章:Scherzo. Allegro

・ショスタコーヴィチお得意のスケルツォ。
・アクセントつけた重音やグリッサンドそして突然の行進曲とどこか「おどけた音楽」。
さすがショスタコーヴィチといったブラック・ユーモア満載で楽しい曲で、技巧的な独奏ヴァイオリンも相まって高速テンポの演奏で聞けば気分は最高潮です。

冒頭、フルートとバス・クラリネットによって跳ね上がる滑稽な主題が提示されます。
また、独奏ヴァイオリンは低音のスタッカートでスタートし、この主題のアクセントとなっています。
そしてその後主題が独奏ヴァイオリンに移って、音楽が発展していきます。

途中では、ショスタコーヴィチ自身のイニシャルから取った「※DSCH音型」が木管楽器によって、独奏ヴァイオリンの重音による伴奏の裏で演奏されます。

トリオは2/4拍子となり「ポーコ・ピゥ・モッソ」の指示で通例に反してテンポが上がります。
ここの部分の独奏ヴァイオリンは技巧的で、力強く重音が連続します。

そしてトリオの後半部分は突如として行進曲調にかわります。
タンバリンやシロフォンが打ち鳴らされるなどとても賑やかな音楽です。

その後は表紙を3/8、テンポもアレグロに戻し再現部となります。

そして、コーダではトリオの行進曲調の主題が出てきます。
その後は、独奏ヴァイオリンが「DSCH音型」を奏し、オーケストラによる大音量のスケルツォ主題も登場。
そうしてそのままのスピードで突っ込むように華やかに曲を終えます。

※DSCH音型とは

DSCH音型(DSCHおんけい)、またはDSCH動機(DSCHどうき)は、ソビエト連邦の作曲家ドミートリイ・ショスタコーヴィチが、ヨハン・ゼバスティアン・バッハのBACH主題に倣い、自身を表現した動機(モティーフ)である。彼の姓名の頭文字(Д. Ш.)が、ドイツ語で D. Sch. と綴られることから、ドイツ音名によるD-Es-C-H(英語音名:D-E♭-C-B、日本音名:ニ-変ホ-ハ-ロ)の4音より構成される。

「DSCH音型」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より引用。
2016年3月11日 (金) 15:33 UTC

第3楽章:Passacaglia. Andante – Cadenza (attacca)

・ショスタコーヴィチヴァイオリン協奏曲第1番の中心となる楽章。
・明るい曲では決してないが、1楽章の暗さとは違い純粋に美しい音楽。
曲が進むにつれて熱を帯びてくる独奏ヴァイオリンには心を奪われます。
20代のころは聴くだけで疲れてしまい正直飛ばしてしまうこともありましたが、30代となった今心に響くすばらしい曲だなと思うようになりました。

第3楽章は主題と8つの変奏からなります。

主題はチェロとコントラバスの低弦によってテヌートで重厚に提示されるものです。
また、ホルンによる対旋律は荘厳なものになっています。

第1変奏は、管楽器によって悲しみを歌にしたような雰囲気で演奏されます。

エスプレッシーヴォで独奏ヴァイオリンが入ってくるところから第2変奏です。

以下、イングリッシュホルンやホルンとのやりとり、悲痛な叫び声のような独奏ヴァイオリンのオクターブの重音など変奏を重ねていきます。

そして、第8変奏では弱いピチカートに乗って独奏ヴァイオリンが冒頭主題提示部でのホルンの動機を弾き、そのままカデンツァへと入っていきます。

カデンツァは長大で5分ほどあります。
3楽章冒頭主題提示部でのホルンの動機や、2楽章トリオ部分、「DSCH音型」などが登場します。
カデンツァ終盤、徐々に盛り上がりをみせグリッサンドの技巧的な音形とともにアタッカで4楽章へとなだれ込みます。

第4楽章:Burlesque. Allegro con brio

・終楽章にふさわしい盛り上がりをみせる楽章。
・野性的な独奏ヴァイオリンと伴奏が特徴の明るく激しい音楽。
祝祭の雰囲気もあり、熱狂的でかっこいいです。
曲の短さやメロディーの分かり易さもあってとても聴き易い曲です。

ティンパニーの1撃を合図になだれ込むように始まります。

短い序奏の後、オーケストラによって民族音楽的なロンド主題が華やかに登場します。
この主題は高音の木管とシロフォンによって提示されます。

その後、独奏ヴァイオリンが加わってめまぐるしく主題の発展を行っていき主部が完結します。

その後は、はねるような独奏ヴァイオリンの「第一中間部」→左手のピチカートや指を弦に叩きつける様なピチカートも登場する「ロンド主題」→急かすようなオーケストラで始まる「第二中間部」→3楽章の主題がホルンによって後ろで吹かれる「ロンド主題」と移っていきコーダへと向かっていきます。

コーダに入ると一気に加速していき、突然ホルンの強奏による第3楽章の主題が再度登場、熱狂の中で一気になだれ込むようにして全曲を閉じます。

おすすめ名盤紹介

ここでは個人的な名盤を1枚だけ簡単にご紹介させていただきます。

Vn独奏:ヒラリー・ハーン 指揮:ヤノフスキ(2002年)

感情を抑制したシャープな演奏。
2楽章、4楽章の盛り上がりは本当にかっこいいです。
緩叙楽章は「これがショスタコーヴィチ」と言った演奏です。
もっと詳しくショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番の名盤が知りたいという方はこちらの「「ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番」名盤紹介!各演奏の特徴」をご覧ください。
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